2010/01/18

巨岩「悪魔の顔」、今も続くマヤ生贄の儀式

 岩の麓に近付くと、そこには大人の男女が五人、子供と赤ちゃんが二人いて何やら儀式の準備をしているようだった。乳母車にロープでつながれた鶏を見て、マヤの生贄の儀式が始まろうとしていることがわかった。結局、我々は3時間あまり間マヤの儀式を見ることになった・・・。

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 ホンジュラスから再びグアテマラに入り、古都アンティグワに入る。ここは、富士山に良く似たアグア火山を街から望むことができ、スペイン統治時代のコロニアル建築で知られている街だ。日本人宿に泊まると、そこで「悪魔の顔」と呼ばれる岩があることを知り、翌16日、朝市を見学してからローカルバスで出かけることにした。

 アンティグワは標高1520m、そこからバスで1時間ほど走ると、「悪魔の顔」と呼ばれる巨岩の麓に到着する。ここは標高540mほどで暖かく、川原で水遊びをする家族連れが訪れるちょっとした行楽地になっていた。下から二つの巨岩が見える。

この岩の一つが角度によってマヤ・インディアンの顔に似ているといわれ、マヤ・インディアンが悪魔とは、あまりにもキリスト教的な都合のよい解釈だと思った。実は、この岩の麓は今でもマヤの儀式が行われていて、マヤの人々にとっては聖なる場所なのである。

我々は、さっそく巨岩の麓へ向かった。岩の麓には水路が流れ大きな巨石が岩盤に折り重なっていた。

その隙間を通り、下った処で地元の人が数人いるのが見えた。


午前10時頃から儀式の準備が始まった。二つの巨石が重なった場所が斎場らしく、岩屋の中と前の空間にある草が敷かれていった。祭祀を執り行っているのはどうも女性で、補佐としての男性が指導している様子が伺える。

岩屋の中に何本ものロウソクが立てられ火が灯される。岩屋の奥に3体ほどの人形(マヤの神)が置かれ、果物、ゆで卵、お酒、花などの供物が次から次へと供えられてゆく。

その後、男性は、巨石の前の空間にトウモロコシと思われる粉で円を描き、その上に茶色いかたまりをまるで絵を描くように置いていった。最後に何本ものロウソクを乗せ、準備が整ったようだ。

時計を見ると11時を過ぎたところ、いよいよ儀式がはじまろうとしていた。

私は本能的にカメラを向けた。すると、祭祀を仕切っている女性から「撮影するな」のジェスチャーが飛んできた。準備の時は何度か撮影させてもらったが、儀式中の撮影はあきらめ、見ることに集中した。

 人々は、円形に作られたロウソクを取り囲むように膝を立てて座り、祭主のもと何やらマントラのような言葉を唱えている。ロウソクや、様々なものを奉納が続いて行く。我々は、どこか神話を見ているような不思議な感覚になった。目の前の儀式が、夢なのか現実なのか分からない。

しばらくすると、別の地元グループと思しき人々がやってきて、近くの巨岩の麓で儀式を執り行い始める。そのグループの儀式は1時間ほどで終り、やがて人々の姿は消えていった。その跡は、ロウソクが灯り花束が添えられていた。

静けさを打ち破るような鶏の泣き声で、我々は現実にひき戻らされた。いよいよ生贄の儀式が行われるのかと思い、我々は顔を見合わせながらどこか覚悟のようなものを確認し合った。

祭司に抱かれた鶏は、一瞬大きく泣き叫んだあとは静かになった。祭司は鶏を巨石や大地に擦りながら呪文を唱え、儀式を依頼していると思しき3人の身体に鶏を擦りつけた。その後、鶏に何かを飲ませて一瞬のうちに命を全うさせた。

人影で鶏がどのような状況で最後を迎えたかはよく分からなかった。しばらくすると、鶏の焼けた臭いが辺りに漂っていた。時計を見ると午後1時をすぎていて、3時間あま儀式を見ていたことになる。

我々はその場を立ち去り、巨岩の山を上ることにする。急な坂道が山頂へとつづき40分ほどで巨岩の頂上にたどり着く。そこには、天柱石のような巨石、悪魔の顔(?)と思しき奇岩を見ることができた。



その後、下山してもう一度儀式が行われていた場所に行くと、儀式はまだつづいていた。ただ、終わりに近付いているようで、人々は何かを飲み、笑みを浮かべ、寛いでいる表情が見えた。まるで直会をしているような。

 初めて見たマヤの生贄の儀式は、怖さは無かった。儀式はある意味でとても清いものを感じた。このグアテマラに於いて、マヤ・インディアンの人々が今でもマヤの伝統文化を伝承していることを知った。そして、何よりもマヤの儀式が巨石の前で行われていることを、この目で確認することができたことはとても嬉しい。しばらくつづいていた古代遺跡巡りの後、久しぶりの巨石信仰と出会えたことは世界石巡礼冥利に尽きる。

我々は、バスでアンティグアに戻り、マヤの儀式と出会えたことに感謝しつつ直会をしたことは言うまでも無い。

18日、観光ポリスの案内でアンティグアの街を見下ろせる十字架の丘に上り、アグア火山を遥拝する。



               グアテマラ、アンティグアにて
                            須田郡司 拝

追伸:今後の予定、明日からエルサルバドル、ニカラグア、コスタリカを目指します。