世界石巡礼の最終地は、ニュージーランドの南の島である。
4月22日、シドニーからニュージーランドのクライストチャーチへ飛び、日本人宿に泊まる。ここは日本人経営のホステルで、多くのワーキングホリデーで滞在している日本の若者がいた。ある若者は、「ニュージーランドはトレッキングをすると美しい風景を見ることができて最高ですよ」、と言っていた。
翌日、インターシティのバスで3時間半ほどかけてクライストチャーチの南にあるオアマルへ向かった。オアマルは、良質の石灰岩が産出される場所で、その石はオアマルストーンと呼ばれ、ニュージーランドのあちこちの教会に使われていた。予約したホステルは、築150年の古い建物であった。
4月24日、いよいよ最後の石巡礼である。
その日は、コースト・ライン・ツアーズに予約をしていて、マオリ・ロックアート、エレファント・ロックス、そしてモエラキ・ボルダーの石球などを巡る事にしていた。
お昼過ぎ、ドライバー兼ガイドのバースがやってきて出発。バースは、とても親切でよく笑う人だった。最初に、オアマル近郊にある古い教会を案内する。この教会は、もちろんオアマルストーンが使われていた。
オアマルから83号線を北西へ約40kmほど走ったところに、Maerewhenuaマエレフェヌア遺跡とTakiroaタキロア遺跡がある。これらの遺跡はニュージーランドのロックアート遺跡のなかでも最も有名な遺跡であり、年間2万人を超す見学者が来るという。
初めにマエレフェヌア遺跡を見学する。道路からやや崖の道を上ってゆくと横長な洞窟が見える。
フェンスの中を覗くと。いくつかの壁画がある。
この壁画は新石器時代の頃から描かれてきたものといわれる。
そこから車で5分ほど離れた場所にあるのがタキロア遺跡だ。こちらは、巨大な崖の下の窪地にいくつもの壁画があった。
マエレフェヌア遺跡と比べると、かなり鮮明に描かれていた。
タキロア遺跡の考古学的埋蔵物の中には、ニュージーランドにヨーロッパ人が渡ってくるはるか以前に絶滅した、飛べない巨鳥モアや固有種のウズラといった、鳥類の骨などもあったという。
二つの遺跡は、それぞれにフェンスが張られていた。その理由は、勝手に壁画を剥がして持ってゆく人がいるためだ。これらのフェンスは、15年ほど前からフェンスは作られたという。ロックアートは現在確認されているもので大小数百箇所ある。しかし、その多くは私有地の中にあるため自由に見学することはできず、実際に見学できる場所は南島でタキロア遺跡、マエレフェヌア遺跡を入れて4ヶ所しかない。
次にElephant Rocksエレファント・ロックスと呼ばれる巨石が点在する場所を訪ねる。ここは、映画「ナルニア国物語」のロケ地に使われた景勝地だ。牧場の中に、突然、奇岩怪石が姿を現す。
芝生の上に、巨大な石を配置したような不思議な風景で巨大な石の庭園といった感じである。
これらの巨石は、今から2400~2600万年前に75~100mの海底のライムサンドが凝固して形成されたライムストーンでできている。このエレァント・ロックスは、一つの岩が象に似ているのではなくて、この巨石群全体がエレァント・ロックスと呼ばれているのだという。エレファント・ロックスは、緩やかな丘にユニークな巨石がいくつも点在していて、思わず石の上に上りたくなる雰囲気があった。
ガイドのバースによれば、このエレファント・ロックスには世界中から素手で岩に上る人々がやってくるそうだ。それにしても、何とも心地良く、心を穏やかにしてくれる場所であった。
最後に向かったのが、オアマルの南約38kmにあるモエラキと呼ばれる海岸地帯にあるMoeraki Borldersモエラキ・ボルダーだ。
ここには、まるで巨大な卵のような直径1m以上、重さ2トンほどの球形の巨石がゴロゴロと転がっていた。海岸にこのような丸石群があるとは実に面白い。
マオリの伝説に寄ると「沖に沈んだカヌーから流れ着いた食料のカゴ」と語られているとか。これらの石球は、海底に沈殿する化石や骨のかけらなどが海中の鉱物の結晶が均等に付着して凝固したもので、約6000万年もの時間を経て現在の大きさにまで生成されたもの。かつて海底であったこの場所が隆起して海岸に姿を現したという。その周りを見ると、海岸の崖土の中から出てきた石もあった。
この石球群を見て、私はふとコスタリカのバナナ農園でみかけた石球を思い出した。土に半分以上埋もれた石球は、これから生まれようとしているようにも見える。
しばらく、石球の回りを巡りながら、ようやく世界石巡礼の旅が終ろうとしていることを実感していた。
想えばこの一年、流れる眼差しで世界42カ国の巨石を駆け巡ることができた。世界には、古くから人間とのつながりを感じさせる石の世界が広がっていた。
小雨が降り始めたモエラキ海岸の石球を見ながら、ふと世界の状況を思い起こしていた。
この一年間の巡礼中、多くの場所で自然災害が発生していた。それは、人々が自然への畏怖心を失いかけているからなのかもしれないと。
「世の中が、丸く収まりますように」と石球を前に祈りつづけた。
世界石巡礼は、今回の旅で終了しました。
これまで、世界石巡礼を支えて下さった友人、知人、恩師、そして親族の方々にあらためて深く御礼を申し上げます。
そして、この巡礼中、東京事務局としてサポートをしてくれたスタジオM.O.G.に深謝いたします。
ありがとうございました。
今後、この世界石巡礼の経験を生かして石の世界を広く伝えて行く所存です。
最後に、この一年間の旅を同行し、様々な助言と叱咤激励をしつづけてくれた妻ひとみに感謝しつつ・・・。
ニュージーランド、クライストチャーチにて
郡司 拝