2009/06/29

口付をされる岩達~ラリベラの岩窟教会群

6月22日
早朝、ラリベラの教会の中で最も知られているセント・ギオルギス教会へ向かった。
ラリベラの街をやや下ったチケット売り場からさらに下った処に岩窟教会はあった。
門番にチケットを見せ、教会が見える丘に立つと朝のやわらかい日差しがセント・ギオルギス教会を包んでいた。 この教会は岩を上から掘りぬき正十字形の形にしたもので、丘から眺めると何とも美しい正十字の形が浮き出ていた。

しばらく見ていると、正十字形の岩の淵にある男性がやってきて、静かに屈みながら岩に口付けをしたのだ。どこか、厳かな儀式を覗き見したような気分になった。

その後、セント・ギオルギス教会の中に入るため岩の窪みの石段を下りてゆくと、大人一人が通れるように掘り下げられた道になり、トンネルを潜ると教会の正面に到達した。下から見ると、彫りぬかれた教会はかなりの高さがある。高さ12m、奥行12m、幅12mの正十字形の石室で、3階建ての建物に見える。
やがてエチオピア人がやってきて、靴を脱ぎ教会の入口の下と横の岩に口付けをして中に入っていった。

このセント・ギオルギス教会は「ノアの箱舟」を象徴しているとされ、別名「ノアの箱舟」とも呼ばれている。
ラリベラには全部で11の岩窟教会があり、世界文化遺産に登録されている。それらすべての教会は、今でも人々の信仰と暮らしの中で大切にされていた。

 ラリベラに岩窟教会群ができたのは、12世紀の初頭。アクスム王国の勢力が衰え、新王朝ザグウェのラリベラ王が首都をアクスムからラスタ地方のロハに遷都する。ロハは、王の名を取ってラリベラと呼ばれる。その頃、イスラム教徒により聖地エルサレムへの道が占領され巡礼ができなくなった。そこで、ラリベラ王はロハの地に第二のエルサレムを建設しようとして、巨大な一枚岩を掘り抜いて11もの岩窟教会を造ったのだ。それは、ラリベラ王の強い決意、人々の信仰への力があったからだろう。また、この11の岩窟教会群は地下通路ですべてつながっているといわれている。

 朝の岩窟教会を巡っていると、ラリベラの人々が日常の中でいかに信仰を主に生活をしているかがわかる。
人々は岩窟に持たれながら聖書を読み、岩の教会に口付けをして聖なる祈りの時を過ごす。それは、岩をハグし、岩と対話しながら生きているようにも見える。


この光景を目の当たりにすると、ラリベラの人々は岩そのものがまるでキリスト(神)の象徴として捉えている、そんな風に思えてくるのだ。それは、まさにアニミズムの世界だ。
エチオピア正教にとって岩という鉱物は、単なる無機質な存在ではなく、神に近い存在として重要な役割を感じているのではないだろうか。


              エジプト、カイロにて  郡司 拝