2009/09/01

スイス、マッターホルンが望めるアニヴィエ谷の巨石

 8月30日
 郵便バスは、スイスの西南部の山間部を走っていた。断崖絶壁に造られた車道は道幅も狭く、バスと車がすれ違う事もできない。クラクションを鳴らしながらドライバーは鼻歌まじりに運転している。やがて、いくつものヘアピンカーブを曲がりながら山上のサンリュックへ向かう。あるカーブを過ぎると突然谷の隙間から雪を被った頂が覗いた。そう、それはマッターホルンだ。何と神々しい山だろう。この山間部に暮らす人々は、この山並みが日常の光景なのだ。


 ベルンよりスイス国鉄に乗り1時間半でシエールに、そこから郵便バスに乗り換えヴィソワ経由でサンリュックへ向かった。サンリュックの郵便局前でバスを降り、さっそく巨石を探す。日曜日は、レストラン以外はほとんど休みで、あるレストランの方に、巨石情報を聞いてみたが、わからなかった。教会近くの民家の方に尋ねると、その巨石の場所を教えてくれた。
サンリュック村の高台の森の中に、その巨石は鎮座していた。
この石は、「未開人の石」という名前が付いている。周囲50mくらいはあるだろうか。かなりの大きさだ。
石の表面には、いくつもの穴が彫られている。灰状穴のようだ。
ここでは、毎夏に「ケルトの夕べ」といったイベントがこの巨石の上で行われるという。巨石の近くには簡単なつくりの十字架が立てられていた。
巨石は一部割れていて、その部分はどこか龍の頭に見えた。
この巨石は、ケルト人とどのような関りがあるのだろうか。この巨石を見ていると、ケルトの宗教ドルイドによって祭祀が執り行われたことが想像できる。
 その後、もう一つの巨石があるグリメンツへ向かった。
ヴィソワから郵便バスでグリメンツへ向かう。バスは次第に急坂を上り始める。しばらくすると、マッターホルンの山並みがさらに迫力を持って望むことが出来た。

 この村には、「殉教の石」と呼ばれる巨石があった。地元の方にその巨石の場所を尋ねると、あるスイス人ご夫妻は、親切にもその巨石まで車に乗せてくれた。どこから来たかと尋ねられ、日本から来たことを告げると、ご主人は日本へ行ったことがあり、奥さんの妹夫妻はハネムーンで日本に行ったという。私がスイスの山を美しいというと、ご主人はマウント・フジも美しいと答えた。
「殉教の石」は、柵で囲まれた中に点在していた。
そこには巨石に寄り添うように小屋が建てられていて、パンフレットが置かれていた。巨石の周りには遊歩道があったので、道を歩いてみると不思議な石があった。その石には二つの足型が彫られていたのだ。この足型から「殉教の石」と呼ばれ信仰されているらしい。
ある石には「未開人の石」と同じように石の表面にいくつもの穴が彫られていた。
中でも最も存在感がある巨石は、斜めに立っているメンヒルだ。
それら巨石を見ながら、ふと奥を見ると森の中に別の石が見えた。近付くと苔むした石がいくつか寄り添っている。さらに奥に行くと、まさに磐座を彷彿させる巨石があった。

 マッターホルンを望めるこのアニヴィエ谷の村々には、ケルト文化や古層の巨石信仰が今でも生きづいている。
そして、日本の磐座信仰ともつながる巨石文化がこのスイスにある、そう確信しながらアニヴィエ谷を後にした。

                    ポルトガル、リスボンにて 郡司 拝